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005・地域の職人

お仕着せと、植木屋の小峰さんと岡田さんの写真。

▲お仕着せと、植木屋の小峰さんと当プロジェクトメンバー岡田畳店の写真。

お寺への出入りを許された職人にのみ渡される「お仕着せ」と呼ばれる、半纏(はんてん)を預かる職人さんたち。当プロジェクトのメンバーでもある岡田畳店もその一人ということで、今回はお寺から「お仕着せ」を預かる職人さんたちの想いや、お寺との関係を、当プロジェクト事務局長・前田が伺いました。

埼玉県養寺院の外観

▲埼玉県養寺院

【 必要とあらば、飛んで行く。】

前田:これは寺からお預かりしているものなんですよね。 お寺から、畳屋さんは畳屋さんにと、各職人さんにお渡しされるもの。これは 何と言うんでしょう。

岡田:「半纏」(はんてん)といい、お寺様からの「お仕着せ」になります。要するに今でいう作業着を職人に渡すような感じです。我々の受け止め方はお寺から要請があれば寺の出入りとしてすぐに駆けつけますという「心意気」の証なんです。

前田:どういう時に着られるんですか?

岡田:お寺さんの行事でお手伝いに行く時にこれを羽織って、支度して行きます。最近だと晋山式がありました。鳶、瓦屋、大工、鈑金、タイル屋さんに建具屋さんなど、だいたい一軒の家ができるぐらいの職人さんが集まってましたね。

前田:やっぱり着ると心が凛としますか?

岡田:ぐっと締めて履くので不慣れな私は着るのに一時間くらいかかることもありますが、背筋が伸びます。

前田:職人さんによって違うと聞いたんですが?

岡田:ものは同じですね。でも、鳶の職人さんは恐らく「粋」に着こなすってことを大切にしてるなと感じます。やっぱり鳶の頭と私の着こなしは全然違うんですよ。例えば、反った草履の意味は、ご主人、いわゆるお客様であるダンナと一緒に並んだ時に、先が出ていることで並んでも私が一歩下がってますという意味があるそうなんです。鼻緒の位置が違うんです。

前田:そんな意味があるんですね。

岡田:草履の頭が揃ってもその人は少し下がって立つ。これがやっぱり職人の見えない気遣いだと思うんです。でもこれはカッコつけてると思って履いている人もいるかもしれない、でも自分はダンナよりも一歩下がってるんだっていう気持ちで履けばその通りになると思います。

前田:気持ちが先ということですね。

岡田:鳶の頭なんかは、お客様であるダンナに「あれがうちの出入りだよ」って「粋だろ」って伝えたいんだと思います。そのために粋に装う。「おたくの鳶は野暮ったいですね」ってそれじゃあ話にならない訳で。このプロジェクトも側から見られたらってことばかりじゃないけど、そういうところまでいかに意識して、見えない「半纏」を着ていられるかっていうことが仲間でいるために必要なことな気がします。

前田:意識ですね。色んな職人さんや業種の方が出入りしてるようですが、ここはこの業者が仕切るというような関係性ってあるんですか?

岡田:当然、鳶の頭がいて、大工さんがいるので、そこの棟梁が仕切ってというのはあります。

前田:なるほど。誰が上とか下っていうのはないんでしょうけど、役割分担は大切ですよね。どういう時に皆さん集られるんですか?

岡田:龍寿会という職人の会があって、新年会とか研修旅行っていう年中行事で集まります。他にはお寺でお盆の時の施餓鬼だとかそういう時に若い人だけ招集があったり。あとはこのお寺で別の団体がお茶会なんかされるんですが、そういう時にこの龍寿会のメンバーでお手伝いに行ったりします。その際にはもちろん「半纏」を着て行きますよ。

前田:行事以外の状況、例えば台風で屋根が少し壊れたとか緊急事態で集まることもあるんですか?

岡田:緊急事態だと「半纏」を羽織って行く暇もないと思いますが、お寺さんから連絡があって、台風やら何かで人手が必要とあらばその職種は飛んで行くと思います。

前田:それぞれの得意分野でお守りする。かっこいいです。お寺と皆さんはどういうふうな関係なんですか?

岡田:この龍寿会に入っている職人の半分くらいは、ここが菩提寺なんです。なので自分も含め菩提寺の人たちは自分の寺だから自分で守るっていう意思は強いですね。自分のお寺が他にある職人さんは「龍寿会」としてこの会に来るので多少の温度差はあるかもしれないですが、必要な時に駆けつけるという目的は変わらないと思います。

前田:それぞれの方々が、俺たちが守っているんだっていう自負みたいなものは感じますか?

岡田:直接確かめたことはないですが、親方さんがいて、この寺はこういうもんだよ、ああいうもんだよっていう風に常に言っているんです。だから我々も常に意識できるっていうのはありますね。「これが用心の礼儀だからね」とか。そういうお話を教えてくれる親方がいるんです。

前田:それはお寺が言うんじゃなくって、皆さんが引き継いでるんですね。

岡田:お寺が言いたいことを代弁されているんじゃないかなと思いますね。休憩のお茶飲みの時もこういうもんだよ、ああいうもんだよって、普段の話として言っているから余計に染み付いて行くのかもしれないです。よもやま話っていうんですかね。

前田:僕もお話し聞いてみたいです。

岡田:例えばお寺で、職人が休憩していて、そこにお寺のお客さんがきて職人の集まりの中にお客さまが交わられることがある。みんな職人用の茶碗で飲んでいて同じ茶碗が余っていても、親方さんがお寺に行ってお客さん用の茶碗を用意してもらいなさいって若い者に声かけるそうなんです。そのお客さんがその気遣いを感じてくれてるかは分からないですが、そういう気遣いや意識を嫌味じゃなく普段の生活から取り入れているところがすごいなと。「5000枚の約束。」でも、上から目線とかじゃなく、普段の場からこういうもんだよね、ああいうもんだよねっていう話がさらっと出て来るようになるときっと面白いですよね。

前田:日頃からの意識、大事なことだと思います。「木遣」(キヤリ)をされると聞いたのですが。

岡田:鳶さんの文化ですね。掛け声かける人と、それに応える人っていう役割分担があるっていうことなんですが、意味としては「やるよー」って言って「いいよー」っていう、それを粋に「木遣」としてやる。我々の場合はトビの頭が掛け声をかけて、こちらが受けをやる、それで全体の「木遣」が成立しますね。職人の中では「マナヅル」「てこ」とかって曲目があるらしいんです。楽譜があって受け継がれるものではないので、口伝えで引き継がれて行くものなんですよね、なので土地土地で拍子や節回しが違ったりもするみたいです。

前田:粋ですね、全てが。自分たちも節度のある団体でありたいって思います。あんまり言うと息苦しいって感じる方もおられるんだろうけど、今回伺ったような「粋」な部分に向かって行きたいです。何かあった時はサッと駆けつけてサッと帰って来るような。こうやったぞって言ってしまいたくなるところを、もっと粋に表現できたらいいなって思います。そう思っている時点で粋じゃないような気もしちゃうんですが。

岡田:このプロジェクトも各メンバーの方それぞれお店の看板はあるんだけど、そこに「5000枚の約束。」っていう「半纏」を羽織っていくようなものですよね。内側には自分たちのユニフォームがあって、でも今日は「5000枚の約束。」の一員で行くんだっていう。土地土地の特色があって、その地域が平和に暮らせるようにっていうところが通じるように思いますね。

(対談:2019年05月)

あとがき

『地元の人たちとの協働を目指す。』

家一軒を建てることができるくらいそれぞれの得意が地元にはある。それ以外の分野もそう。
自分の役割を認識することから始まり、お互いの役割を尊重しながら連携しながら、それぞれが役割を果たしていくという、その当たり前のような継続的な行為がお仕着せも含めた地元の歴史や文化を形成したり、いざというときにはみんなで地元を守ることにも繋がっていくのでしょう。私達の平常時の仕事も非常時の活動も、地元畳店としての役割を認識しながら継続し、地元の人たちとの共働を目指していきたいと思います。
「粋に装う。」これは内側から滲み出るもので格好をつけて真似してできることではない。時流に流され格好から入る…そんな野暮ったい活動にならないようにと目の前の半纏に言われているようでした。

(事務局長・発起人 前田敏康)